《ちょっとエッセイ》ストローほうれん草
食事中、息子はいつになく集中していた。
片手に汁椀を持ち、箸で何かを掴もうと必死だった。
思うように掴めないのか、何度も持ち方を変えながら挑戦する。
小学生の息子は、箸の使い方は習得しているので、うまく使えないということではなさそうだ。
何をそんなに掴みたいのだろうと気になった私は、しばらく観察することにした。
違う。どうやら掴みたいのではなく、納得のいく形のほうれん草を選別しているようだった。
その瞬間、私はピンときた。
これはストローほうれん草だ!
ほうれん草の茎は真ん中が空洞になっている。
それをストローのようにして、彼は味噌汁をすすろうとしているのだと思った。
小学生の頃の私もやったことがあるので、すぐにわかった。
食べるのがすごく遅かった私は、家族全員が食べ終わった後も、大きなダイニングテーブルに一人ぽつんと座り、黙々と食べていた。
つまらなくならないように、いろんなことを空想しながら。
そんな時、ふと目に止まったのが、ほうれん草の入った味噌汁だった。
ストローみたい。
そう思ったら、試さずにはいられなかった。
食べやすい長さに切られているので、ほうれん草の茎はだいぶ短い状態だ。
味噌汁を飲むためには顔を近づけないといけない。
長いほうれん草はないか。
選別作業が始まり、そのなかでも一番長くて元気のある茎を選ぶ。
口にくわえると、そのままお椀に顔を近づけて吸ってみた。
口の中に味噌汁が入ってきた。
面白い!
これで全部吸い込んでみよう。
そう思い夢中で続けていたら、母に見つかった。
「行儀が悪い。普通に飲みなさい」
怒られるとは思っていたが、気になったら試さずにはいられないのが子どもだ。
その後も母の目を盗んでは、いろんな野菜で試してみたりした。
でもやっぱり、ほうれん草が一番ストローだった。
私の予想どおり、息子は一番いいほうれん草を選別して味噌汁を飲み始めた。
今は私も母親だ。
食事のマナーはきちんと身につけた方がいいし、注意した方がいいのはわかっている。
「お行儀悪いからやめようね」
その言葉を言う前に、どうしても聞いてみたかった。
「飲めた?」
その言葉を聞いた息子は、一瞬驚いた表情を見せた。
だが次の瞬間、満足したような、それともバレていたかというような顔でニヤリとした。
私もあの頃、きっと同じ顔をしていたのだろう。