また声をかけられた。
私は昔から、よく人に声をかけられる。
ウォーターサーバーやインターネット回線のセールス、道を聞かれたり、売り場で商品の場所を尋ねられたり。初対面の人に世間話をされることもある。
夫曰く、「聞いてくれそう」なのだそうだ。
たしかに、困っている人かもしれないと思うと無視もできず、そもそも上手なあしらい方もわからない。
そのうえ人見知りなので、気の利いた返事もできず、なんとも気まずい空気になってしまう。
そのたびに、私は小さくHPを削られる。
そんな私とは逆に、夫はほとんど声をかけられない。
歩くのが速いせいもあるだろうが、一番の理由は「圧」だと思う。
決して怖い顔ではないのに、なぜか少し萎縮してしまうような空気をまとっている。
そのおかげで、セールスはもちろん、道を聞かれることすらないらしい。
話しかけられたときの対処が苦手な私は、これだ、と思った。
圧を放てばいいのではないか。
そうすれば、少なくともセールスには捕まらずに済むかもしれない。
しかし、どうやって圧を放つのかがわからない。
とりあえず、笑顔にならないようにしてみた。
次に目。
少しだけまぶたを下げて、冷静さを演出する。
イメージは『極道の妻たち』の岩下志麻さんだ。
最後に歩き方。
早歩きをすれば、物理的に声をかけづらくなるはずだ。
「私、急いでるんで」
「忙しいんで」
そんな空気を放ちながら歩く。
これで少しは、話しかけられることも減るかもしれない。
しばらく練習していたら、娘がひと言。
「お母さん、怒ってるの?」
圧を放つというのは難しい。
私はただ、不機嫌な人になっていただけだった。